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障がい者の方へ


Interview

2009.12.2

視覚障がい1級(全盲)Y.Hさん
第7回神奈川県障害者技能競技大会
??アビリンピック神奈川2009??
金メダリスト

負けず嫌いの気質が彼を”金”メダルへと導いた。2006年29歳の時に視力を失い、辛い経験を乗り越え、念願叶う。早くも次なるターゲットへと意欲をみせる彼は、現在33歳。既婚。

そんな彼にお話を聞きました。

bulletQ1.重度の視覚障がいをお持ちにもかかわらずExcel操作が得意ですね。
今回 ??アビリンピック神奈川2009?? に参加したきっかけをお聞かせいただけますか?

A1:ExcelとWord初心者の私が学ばせて頂いたのは、国立の訓練機関でした。入校して一定期間を過ぎると就職のための活動を始めます。ここでは、さまざまなアプリケーションを学びました。入校当時から修了まで、私のExcel科目の担当であった村上先生の熱意あるご指導のおかげでExcelだけは、アビリンピックに出場できるまでのスキルを身につけることができました。
アビリンピックに出場するきっかけとなったのは、履歴書を作成するにあたりどうやって自分をアピールをすれば良いか考えたからです。学歴や職歴が少ない私は、まず「資格」を取れるだけ取ろうと考えました。 しかし、現状はとても厳しく、私のような重度の視覚障がい者が受験できる「資格」は非常に少なかったのです。自分のスキルが面接時にアピールできないことで悩みました。それでも「資格」が少しでも就職に有利になるならばと思いました。そんな思いを抱いていた頃と同時に、お世話になった先生に ”アビリンピック全国大会” の視覚障がい者専門の「パソコン操作」部門で出場してみないか。というお話をいただき「推薦」という形で出場しました。その時は金メダルは逃してしまいましたが(笑)、挑戦あるのみ!と決意して今回の??アビリンピック神奈川2009?? に参加させていただきました。金メダルは本当に嬉しいです!
これからも、2010年に開催される全国大会でも金メダルを目指してスキルを積み重ねていきます。


bulletQ2.競技種目「パソコン操作」でのエントリーでしたが、難しい点はどこでしたか?

A2:実は、私が出場できる種目は非常に少ないのです。全17種目のうち、視覚障がい者が参加できる種目は「パソコン操作」と「ホームページ作成」だけなのが現状です。そこで得意なExcelを使う「パソコン操作」でエントリーしました。余談ですが、「ホームページ作成」に出場するにはまだまだ勉強不足だと思っています。時間をかけていずれ狙いたいですね。難しかったのはやはり関数です。非常に難易度が高く、関数のネスト(組み合わせ)を考えるものが殆どだったと記憶しています。弱視の方に比べ、私のような全く見えない者にとっては、問題文を読みファイルを開いて内容を確認するだけでもかなりの時間を使ってしまいます。 CS検定(コンピュータサービス技能検定:中央職業能力開発協会)の3級を取得していますが、まだまだ知らない関数も数多くあり、CS検定で言うならば1級??2級相当の難問でした。出題された問題は事務などの業務を想定されているだけの事もあって、かなり実用的と感じるものでしたので大変勉強になりました。


bulletQ3.殆ど独学での”金”メダル獲得ですね。
学習スタイルをお聞かせいただけますか。また、どのような点に工夫されましたか?

A3:独学ではないですよ(笑)。訓練時代の村上先生のご指導があってこそです。
アビリンピックに向けての対策は、予選会や全国大会を問わず「公開課題」と「CS検定(略称)2級」相当の関数を含むさまざまな機能の対策問題を、繰り返し、繰り返し、これでもかってくらい解きました。工夫ってほどではないのですが、勉強スタイルとしては、長時間悩んで考えるというよりは、少し考えても答えが出ない場合、答えをすぐに見るようにしました。そして、その解答をじっくり検証し、より効率の良い解答や効率の悪い解答も探しました。そうすることで、どのような時にどんな関数を使えば良いかが少しつづ分かってきました。時間のかかることですが、これを行うことで少しでも自分の中での引き出しが増えると考えてます。


bulletQ4.パソコンが自由に使えるようになって人生はどのように変わりましたか?
今後はどのようなお仕事に就きたいですか?
また、選べるのであれば、どのようなお仕事をしたいとお考えですか。

A4:以前、普通に見えていた頃は、主にインターネットでのオークションや閲覧、メールでした。それもよくわからずに(笑)。少しだけパソコンの知識がついた今、アプリケーションやインターネットを有効に活用することによって、以前よりもかなり情報収集やデータ管理に役立ってます。
希望する職種は、一般事務職を考えていましたが、やはり厳しいです。重度の「視覚障がい」を持つ者を受け入れてくれる企業も少ないのかと、そして軌道修正を考えました。私のようにスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)を使っていても、実は、健常者と比べると、かなり近いところまでキー操作だけで対応できるんです。が、やはり、見えないことでの限界はあります。
現在、この国の重度の視覚障がい者に対する職業訓練や就職支援は、教材の不足や、専門に教える側の方達の不足、就労を支援してくださる方の不足も含め、十分ではないと痛感しました。私のように常にスキルアップを求める方もたくさんいらっしゃることでしょう。しかし、国の機関などで学ばせて頂いても、いずれ卒業しなければなりません。コンピュータは進化し続けていくものなので、皆と同じように、「まなび」の機会が欲しいと考える視覚障がい者も少なくない、と思うようになりました。これらを考え、私にできることは、訓練を通して学んだこと、不具合の解決法、そして、できないこと、できること、など、今までのあらゆる経験を生かして同じような境遇の方々の力になることができればと、思うようになりました。常に勉強することが自分のスキルアップにもつながりますので、今では教える側のお仕事に関心を持っています。この私が教えるなんて偉そうなことは言えませんが、もっと色々な知識を蓄え、「伝える側」になることができれば、との思いでの就職を考えています。


bulletQ5.では最後に、”金”メダリストからの応援!としまして、 これから ??アビリンピック?? に挑戦しようと思っている方々へメッセージをいただけますでしょうか。

A5:アビリンピックは、コンピュータスキルや仕事で学んだことが具体的に評価される場です。
視覚障がい者に限っては、参加者はまだまだ少ないと聞いています。”全国大会” の出場キップを獲得する、予選会が行われない都道府県も多くあります。主催者側もいろいろとご苦労されていると想像できます。参加させて頂き感じた事ですが、競技の方法については軽度の弱視の方から私のような全盲者までハンデキャップが無いことに多少の疑問は残りますが、みなさん是非とも挑戦してください。重度の視覚障がい者でも高いスキルをお持ちの方はたくさんいるはずです。
百年に一度の不況と言われ、それに加え、私と同じような境遇の方の就職が厳しい昨今、その素晴らしい、すごい力を持っている方々にも参加していただきたいです。そして、まだまだ知名度の低いアビリンピックを、一般の方々や企業の方々にも注目される場であって欲しいと願うと同時に、「重度の視覚障がい者でも、できる仕事がある。」ということを一緒にアピールしていきたいです。私自身が全盲ということもあり、自分の障害について語ってしまいましたが、他の障がいをお持ちの方にも同じことが言えると思っています。やればできる!


参考:
厚生労働省(平成18年現在 ※5年に一度の集計)
日本全国で視覚に障がいを持つ人口はおよそ31万人と言われています。
そんな方々を支援するプロジェクトが日本IBM「東京基礎研究所」で行われています。この ”ソーシャル・アクセシビリティ・プロジェクト” はユーザやボランティアの方々や大学、障がい者支援組織の協力を得て研究されています。2008年には世界のIBM研究機関の中でこの「東京基礎研究所」がアクセシビリティ研究の正式なリーダーとなっています。
Webサイト:http://sa.watson.ibm.com/ja

※優秀な成績を収めたY.Hさんには、平成22年10月に神奈川県(横浜市)で開催される“アビリンピック全国大会”への出場資格が与えられました。本当におめでとうございます。CML, LLcはこれからも頑張る人を応援します。

※CML,LLc にてトレーナー経験を重ね、コンピュータを教える"トレーナー第1号"として、「東京都視覚障害者生活支援センター」に勤務が決定しました。
Y.Hさん、☆おめでとうございます!